渋谷に福来たるSPECIAL ~落語フェスティバル的な~「古典ムーブ/春一番」

渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール(二人)
 17:00開演。この日も,ど真ん中とはいえないものの最前列の中央ブロック。
「真田小僧」入船亭辰じん
「明烏」柳家三三
「花見の仇討」桃月庵白酒
(仲入り)
「お節徳三郎」柳家喬太郎


 辰じんさん,なかなか達者。
 三三さんはお馴染みの話をしっかりとやり,顔芸も交ぜつつ笑いをとる。絶妙。甘納豆の件もちゃんとやる。
 白酒さんがまくらで「女の子が握手を求めに来ない」とボヤいたタイミングで袖からおっさんが出てきて握手を求める。これが私服の喬太郎さんで会場爆笑。
 他の落語家の高座に乱入なんてことはタブーだろうが,「フェスティバル的な」という空気の中に美味しい臭いを嗅ぎ取った喬太郎さんの嗅覚の見事さ。
 勿論,白酒さんも乱入くらいで浮き足立たず,本篇でキチンと笑わせる。
 さて,その喬太郎さん。この三日間のお祭りの最後のプログラムの正にオオトリで何故この話なのかと,首を傾げたくなるような話。
 中盤までは,笑どころ満載だけど終盤は若い男女の心中物語。最後のどんでん返しで笑いにかえる下げが一般的ですが,この日はそのまま近松の世界。ひたすら哀しい。
 話としては見事な出来。
 今思い出して気になるのは,(既に記憶があやふやですが)手振りをまじえて「たったったったったっ」と走る情景描写が二度か三度あったけど,様式の持つ力で引き込まれる部分と,繰り返しが気になる部分の相反する効果がありますね。
 ところであれは,迷子探しではなく,逃げる二人の描写でしたっけ?白無垢の花嫁が走るイメージじゃないような気がしてきました。
 それと,私の聞き間違いかもしれませんが,最後の場面で「花びらふたつ」っておっしゃってました?白無垢の花嫁が桜の花びらというのは判るけど,徳三郎がどんな着物を着ていたにしても花びらには見えないんじゃないかな?
 それだったら,二度と離れないという思いで固く抱きあった二人が白無垢に包まれて,あたかも一つの花びらのように散っていったという画の方がしっくりこないですか。
 さらに,まるで花びらのようにひらひらと散って,けれど最後には生身の人間である重さを思い知らされるような擬音を入れるのは効くのですが,「ドボン」とか「ドブン」じゃなくって「ザブン」「ザブ」とか。でも,これは好みかなぁ。
 それにしても喬太郎さん。生で拝見するのは昨年のC.C.Lemonホールでの震災応援のイベント以来の二度目で,併せてテレビなどで何度か拝見した程度でしたが,面白さに騙されちゃいけない,本質は滅茶苦茶上手い人だろうなと感じておりましたが,思い知らされました。
 熱い拍手のなか深々と頭をさげる喬太郎さん。そのままの姿勢で左右を窺う。手違いで幕が下りないのかと思うほどの間が空いて,三三さんと白酒さんが登壇。
 三人で高座に並び最終日の挨拶めいた話。喬太郎さん曰く「主催者に余韻を残すなと言われた」との事ですが,何だそれ?取り敢えず三本締めで幕。何かしっくりこない演出。
 二つの会場で三日間に亘ったお祭り。全体を通してみれば,最後の最後に喬太郎さんの「お節徳三郎」を持ってきた意味も判るのか?
 とはいえ,昇太,兼好,生志,市馬,三三,白酒,喬太郎を最前列で聴くというなんとも贅沢な機会を提供していただいたイベントに文句を言う気はさらさら無い。なんという贅沢な時間。