2015/06/06(土)19:00 アートスペースサンライズホール
「野ざらし」
「およそ3」
ゲストトーク・前田一知さん
(仲入り)
「黄金餅」
※この文章いつも以上に特に後半が冗長です。
立川談吉さんの主軸の独演会である「談吉百席」。その記念すべき10回目。
六月六日に雨ザーザーとは降らなかったが,一応ポツリポツリと落ちて来たのは,さすが雨師の面目躍如。
「この会に懲りずに来てくれるお客様は本物の変わり者」という談吉さんの言葉からすると,皆勤の私は真の本物。
「野ざらし」も「黄金餅」も何度か聞いたことのあるネタでしたが,この会では演ってなかったのですね。意外。
この日は時間的な制約があったと思うのですが,いずれの出来も良かった。
ツボに入ったのは,「黄金餅」で棺桶代わりの菜漬の樽を寺に運び込むのに壊れて開かない門扉を倒すところ。
以前談吉さんが,壊れた門扉を避けて垣根の人一人やっと潜り抜けられる穴から入ったのはいいけど遺体の入った樽をどうやって入れたんだという指摘があり,私自身はそこは気付かずにスルーしていたので,あぁッそういえばと改めて不思議に思った次第。
落語のすべてに理論的な整合性を求めるつもりはないし,そこは私的に許せるところではあったのですが,「門を倒して」の単純明瞭さは痛快。
この日の白眉は「およそ3」。直前の会でおろしたばかりの新新作。ありふれた日常の会話から立ち現われる不思議な世界。
これが落語なのかどうか何とも言えないのだけれど,落語家立川談吉が高座で演れば落語です。この話かなり好き!
更には前日に急遽決定したトークゲスト。
記念の会と言う事で初めてのゲスト。記念だからこそ独りでとか,怪我をおして師匠がゲストにとか,イタコ経由であちらの師匠をとか,周囲の期待も様々だったでしょうが,何のアナウンスも無かったところに前日かなり遅い時刻での発表。
そのゲストが「前田一知」さん。一般的な知名度はわかりかねますが,知っている人はオッとなる名前。
桂枝雀さんのご子息で本職としてではないようですが落語もなかなかのものだとの噂。
正直,見たい思いと見たくない思いが入り乱れていた方だったのですが,これで見ざるをえなくなったわけで,私のミーハー要素が一気に沸騰。
トークは談吉さんが頑張ってまわし,前田さんも沢山語ってくれた。ここでしかと言うような話があったわけではないが,着物を着て登場した前田さんの顔立ちや声,立ち居振る舞いが想像以上に枝雀さんに似ていて,私は涙ぐんでその姿を見つめていたわけですが,その涙の理由は自分でもわからない。
挙句の果ては楽屋に押し掛けて,枝雀さんの千社札シールを貼ってある携帯電話でツーショットの写真まで撮ってもらった。大人げない失礼な事をしてしまったと反省しています。
ちなみに私が定期的に落語を聞くようになったのはここ数年。それ以前も単発で年に一回あるかないかのペースで落語を聞くことはあったけれど枝雀さんには間に合っていない。生で拝見したことはない。
大好きな落語家さんではあるが特別な思い入れは無い筈だと思っていたが,妻に指摘されて気が付いた。所有しているCDやDVDの数は枝雀さんが突出して多い。とはいっても十数枚のレベルだけれど。
生で聞く事が出来ないからという事もあるだろうけれど,やっぱり大好きな先代小さんさんや志ん朝さんが「昭和の名人」といったムックの付録くらいしか無く,談志さんでも5枚に満たないのに比較すれば不思議。
なお,妻も枝雀さんが大好きだが,私と前田さんのツーショット写真を見て「(枝雀さんに似ていて)恐い。毛がある,恐い。」とこれまた失礼な発言。
前日初対面の前田さんへのオファーが実現というのは,談吉さんのここ一発の運の強さか。
結果的に,枝雀の血脈(けつみゃく)は談志の血脈(けちみゃく)の記念の会のゲストとして見事な選択だったのではないかと今思っています。
談吉さんの(そんなこと無いと思いますけど)苦し紛れの決断に拍手。