一富士,二鷹,三なすび。で,武田百合子さんの「富士日記」。文字通りの日記です。日記と名の付いた小説とかではなく,まんま日記です。
もう20年位前,先ず夫君である泰淳氏の「富士」を読み,その流れで「富士日記」を手にしたわけですが,これが面白かった。今回読み返してみても,その感想は変ることは無い。
泰淳氏から勧められていやいや書きはじめた,公にする気は無かった日記。「天衣無縫」と形容されていましたが,身の回りの出来事をそのまま気取らず書いている。小説家の身内という特殊な環境とはいえ,書かれているのはどの家にも起こりそうな出来事ばかり。それが,何故これほど面白いのでしょう。日記の態をした,計算しつくされた小説とでも言われた方が納得するくらいです。
その後に,何冊か本を出されていますが,いずれも小説ではなく日記形式のもの。天衣無縫の文章は変ることなく,読む人を包み込みます。