もう一度,萩尾望都さんの初期の作品から読み直してみたい。
アニメ・コミック
JAPON
日仏の作家がJAPONを題材に漫画を描いているアンソロジー。ほぼ半分読み進んだ時点で,いささか観念的な「JAPON」に囚われすぎな感じもしますが,やはりこれらもまた間違いなく日本の一面なのでしょう。
谷口ジローさんの作品があります。皮肉ではなく,まさに「日本的な感覚」で成り立った作品だと思います。
最後の一コマはページの下半分程の大きさをとった夏の海辺の村の遠景。そこに添えられた4行の詩。その2行目に私の目は釘付けになりました。
「雲切れひとつあるでない」
確かに私はそのひと時,見知らぬような懐かしいような何処かの海辺で,あまりにも澄み切って宙の闇が透けて見えるような青暗い空を呆然と見上げて涙を流していました。
中原中也さんの「夏の日の歌」からの引用だとのこと。冒頭の四行だけ挙げておきます。
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「夏の日の歌」
青い空は動かない、
雲片一つあるでない。
夏の真昼の静かには
タールの光も清くなる。
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どうやら「雲切」は「雲片」の誤植。ともに読みは「くもぎれ」ですが,辞書的には「雲切(れ)」は「雲が切れること」で,雲があることが前提ですから,意味的には全く違ってきます。ところが,私は幸か不幸か読んだ時点で「雲切」という言葉を知らず,そのシーンの雰囲気で「雲の切れ端」くらいに思い込み,それほどのブレはなかったようです。
もちろん谷口さんの画力も相俟ってとはいえ,わずか11文字で人一人を異界に連れ去る中原中也という才能。