白談春

 事前の投票で決まった二題。
 二番が「居残り佐平次」,一番人気は,やっぱり「芝浜」。

 家元死去を受けて,結果に影響があったかは判らないが,年末の「芝浜」は当然といえば当然か。私もこの話に一票を投じたけれど,これは決まっていたようなものなのだから,もう一つに賭けるべきだった。
 聴きたかったのは「紺屋高尾」。惜しくも三番。
 得票数は判らないが,五十の演目の半ばから下位にかけては複数同位が多いところを見ると,それ程の総数でも無いのかと。であれば,私の票でひっくり返ったかもなぁ。
 さて,その「居残り佐平次」が聴きたく無い訳ではない。とても良い「居残り佐平次」でした。

 「芝浜」
 こちらも,とても良い芝浜でしたが,気になった所が一つ。
 女房が夢だ夢だと勝五郎を言いくるめる段で,浜に行った行かないの遣り取り。
勝五郎「おまえに起こされて」
女房「起きたのかい?」
勝五郎「起きなかったよ!」
※言い回しはうろ覚えです。
 このやり取りが何度か繰り返されるのが腑に落ちないのです。
 素直に起きたわけではないにしても,起きて出かけたわけですし,「起きなかった」では浜に行ける筈も無く,言い争いにもならないなぁと,話の途中この点だけがひっかかっていました。

 最後は「夢になるといけねぇ」で切らずに「だろ?」(だったか,これも記憶があやふやですが)と続けておられました。定番の決め台詞というより,女房への語りかけという雰囲気で,書きながらも思い出して涙が出てきますが,これが客席にじんわりと伝わり,徐々に盛り上がるような拍手が起こっていました。

 先日の,志らくさんのときは,これも正確なせりふは覚えていないのですが(いちいち言い訳つきで申し訳ない)決め台詞的で,ほんの一瞬の間があり,爆発的な拍手が起こった印象で,あれも気持ちの良い体験でした。
 それにしても,千人が水を打ったように静まり返り,何を言うかは百も承知で,どんな間なのか調子なのか云い回しなのかと,その一言に耳をそばだてている。そんな状況で話せる落語家ってすごいな。