瀧川鯉八独演会@couzt cafe

2014/09/04(木)19:30 couzt cafe

「都のジロー」
「暴れ牛奇譚」
(仲入り)
「俺ほめ」
(やぶのなか)

 「俺ほめ」は初めて聞いた。
 初め三席とおっしゃっていたのだが,時間的に短いと思ったのか,「俺ほめ」後に「一応これで終わりですけどもう一席。お帰りの方はどうぞ。」といいながら「やぶのなか」を演ってくれた。こちらは名前だけは知っていたが,実際に聞くのは初めて。

 面白いなぁ。鯉八さんは個人的に当たり率が高い。六月にレフカダでの桂宮治さんとの二人会で拝見して以来の鯉八さん。やっぱりこの日も抜群に面白い!

 というわけで,落語そのものは非常に満足な会だった。

 ここからは雑事。この数日前の「宮治 vs 扇」の帰りにiPhoneを二台まとめて紛失。結局見つからずに,この日softbankの方だけを機種変更したばかりという,かなり落ち込みイラついた状態での愚痴っぽいメモ。

 この日の会は自由席。予約で満席という事前情報があったので,見やすい席を確保するために早めに出かけた。

 JR日暮里駅から歩く。込み入った道を新しいiPhone5cを頼りに辿り,開場20分前着。この季節,時刻も時刻なので暗くなりかけていたが,途中の町の風景や店の感じもよかった。到着時点で並んでいる人はいない。

 「close」と表示されたガラスのドアや大きな窓から中の様子が見える。私服で高座に座ってリハーサル中の鯉八さんと目が合う。スタッフが出てきて開場時刻まで待つようにとの指示。
 会場であるコーツトカフェさんは手作りの靴や鞄を扱ってるらしいので,元鞄屋としてはそちらも興味津津だったのだけど,少なくてもイベントがある日は商品が沢山並んでいるって感じではなさそう。

 入り口脇で独り待つ。暫くすると若いカップルが当たり前のように店内に入りスタッフと談笑しながら席に着く。お馴染みさん特権なのか,細かい事を言いたくはないが待ってる人がどう感じるかは気にした方がいい。

 そのうち,私の他に三人ほど並んだあたりで,やや早めに開場。

 電話で予約したはずの私の名前が受付に無い。だからといって入場を断られたわけではないが……。

 程よい広さに30弱?くらいの椅子が並べられた店内。最前列だけがソファ。左に一人掛け,右に3,4人がけ。二列目以降はおしゃれな椅子。
 初め二列目の上手側に座ったが,しばらくして最前列のソファ上手側に移動。圧倒的に楽ちん。

 ぽつぽつと客が増える。女性客が私の隣に座る。このときのスタッフの説明ではソファは三人がけの計算らしい。

 別の女性が,スタッフに「知り合いが来たいらしいんだけど」と相談。大丈夫との返事。満席とはいえ余裕は見てあるだろうし,キャンセルもあるだろう。固定席では無いので融通も利くだろう。

 最前列のソファは詰めれば四人座れるが,この時点では二人だけ。私と離れた逆端ではなく私の隣に座ったのは演者の真正面を避けたのだろう。

 その女性は二列目の女性と親しげに話している。多くの落語会に通っているようで詳しそう。二人が一緒に入店したのかは未確認だけど,纏まって座りたいのであれば,未だこの段階ではソファ席に余裕があった。

 しばらくすると女性スタッフが私に近づいて来て「ご提案があるのですが」と。
 要するに「混み合うのでソファは女性四人に座っていただきたい。ついては,二列目の女性と替わっていただけないか。」ということ。これは,後ろの女性客では無くそのスタッフ発信。

 理屈は判る。一般論として男性より女性の方が華奢。私は男性としてはそれほど幅広い体型では無いが,詰めて座るのに,見知らぬオジさんの隣よりは知り合いの女性同士のほうが良いだろう。理屈はよく判る。
 店側にも女性客にもメリットのある「提案」。

 で,私にとっては?
 受け入れた場合は「もの判りの良いお客さん」という称賛と引き換えに,自分で最善だと判断した居心地の良い席から,一つ後ろに移動。後ろとはいえわずか一列。もともと初めに座った席でもある。

 断った場合は「もの判りの悪い身勝手な客」と罵倒されながら最前列を確保。ソファに三人座るか四人座るかは判らないが,スタッフの善意の「提案」は私以外の客の耳にも届いている。それを断った私は,どう考えても居心地が悪いだろう。

 どちらにしても,この時点で既にこの日のこの会に私の居心地のいい席は無い。

 となると,後は私以外のメリット次第か。そうなれば,スタッフの提案を受け入れた方が,全体としては+なのでしょう。

 席を移る際に,そのまま帰ろうかとも思ったけれど,それも大人げないし,極力何でもない事のように席を替わって,腑に落ちない思いを大切に育みながら開演を待った。

 落語は文句なしで面白かった。初めて開催する落語会を皆で気持ちよく過ごして欲しいというスタッフの意気込みもよく判った。ただ,「正しい提案」で相手の逃げ道をふさぐ手法がディベートでは正解だとしても,私が落語に求める空気感とは違ったということかな。

 この日のチラシに掲げられていたコピーは「人の心の狭さにスポットをあてた独特の世界観」。
 振り返ってみれば,まさに,己の心の狭さと向き合うことを余儀なくされた会だった。うん,お見事!