「ぞろぞろ」立川談吉
「火炎太鼓」立川志らく
(仲入り)
「芝浜」(映像)立川談志
2006年まで何度か奥様と年末のよみうりホールで行われた立川談志さんの独演会に出掛けたが,年々肉体的な衰えが露わになる家元の高座に付き合わせるのも忍びなく,翌年は独りで観た。
その2007年の「芝浜」は,本人をして「ミューズが降りた」と言わしめた伝説の高座となる。
にもかかわらず,この目で見この耳で聞いた私はピンと来なかった。勿論,立川談志の芝浜が悪い訳は無いけれど聞かせどころである女房の告白の件が嵌らなかった。
その後,ご本人だけではなく,廻りからの評判の高さを見聞するに付け,自分の理解度が低いのかなぁなどと考える。
そして,やはり評価の高い2006年の別公演(これは実際には見ていない)の芝浜を追悼番組で見ても,やはりピンと来ない。
年齢による衰えはさておき,立川談志の技術や理論の積み重ねから,それらを超える表現が現れることがある。それは素晴らしいものであるには違いないが,要は好みの問題。私好みの演り方ではないということ。ただ,それだけなんだと思う。
さて,よみうりホールで行われた「談志ザ・ムービー「芝浜2007特別編」夜の部」を見に奥様と出かけた。
伝説の高座の映像を,それが演じられたよみうりホールで上映する。
会場に入ると,舞台の幕が開いた状態で,設えられた高座には家元の写真。めくりも「立川談志」。入れ替わり立ち替わりステージに近づき写真を撮る人が絶えない。
開演が近づき,一旦幕が下りる。
改めて幕が上がり,談志最後の弟子となった立川談吉さんの「ぞろぞろ」。
初めて拝見するが,千人を前に怯む素振りも見せず,客席の反応を確認しつつ堂々の高座。30歳になったばかりとのこと。面白い。楽しみ。
続いて立川志らくさんの「火炎太鼓」。
談志さんの話は当然ながら,例によって談春さんの話。談春・志らくはBLか。
談志さんが憧れた志ん生の十八番に,志らくさん独特の笑いを織り交ぜた独特の世界。いやー,面白い。
中入り後の幕が上がると,舞台上のスクリーンに,正に同じ会場の高座風景が遠景で映し出される。
スクリーンの端から立川談志が現れると,会場からも拍手が起こる。画面が寄りになり,立川談志の芝浜が始まる。
話しが終わり沸き起こる拍手を制して「一期一会。また違った芝浜が出来た。」と深々と頭を下げる。スクリーンの中で一旦下りた幕が,再び上がる。「良かったと思う。ありがとう。」もう一度「一期一会」と口にして再び頭を下げスクリーンの中の幕が下りる。
その映像を隠すように,舞台の幕が下りる。切ない。
正直なところ,今回の映像でも嵌らないという印象は変わらないのだけれど,それでも立川談志は立川談志だった。
結局,私が生で立川談志を見たのは,あの高座が最後。自分の芸にも厳しかった立川談志が自らその出来を認めた芝浜に立ち会えたことは,やはり幸運だったなぁ。