10月末,イラク。日本国民注視の中で一人の日本国民が殺されました。
「何故この時期にそこへ?」という疑問,非難は当然とも思いますが,怖いのは,一部の特別な人ではなく,私の身近な人,例えば会社の先輩上司やファストフード店で近くに座ったおばさん連中が当然のような顔で「自業自得」と言い放っていることです。
彼がどのような思いでかの地に出かけていったのかは分かりません。これまでの犠牲者,人質の方々と比べると,その理由が分かり辛く,危険性を全く考慮せず,または軽く考えて,興味本位で出かけたかのような印象を受けます。
その結果,おそらく本人が想像もしなかったような迷惑を多方面にかける事になりました。そのことは,どれほど非難されても致し方ないことだと思います。
しかし,だからといって「自業自得」とはどういうことでしょう。確かに彼は,彼自身の判断次第で今回の難を逃れることが出来たはずです。しかし,我々の判断次第でも彼を殺さずに済んだのです。
実際に手を下した人達の論理は認められませんが,表向き,彼は日本国民だから人質となりました。日本国が自衛隊を派遣したためです。その決定を下した政府を選び,またはそれ以外の政府を選ぶことの出来なかった日本国民である以上,誰一人として自衛隊派遣決定の責を遁れることは出来ません。もちろん,選挙権を放棄し,その代わりに政治に関しては一切の文句を言わないという姿勢をとっている私も例外ではありません。
「自衛隊を撤退させなければ人質を殺す」という要求に対しても「撤退はない」と言ってのけた人物を長とする日本国の政治を選び,その判断を変えることも出来なかった日本国民は,その総意で香田証生さんを見殺しにしました。
我々日本国民は,日本国や日本国民からの助けを期待する権利を失いました。